しがらみ

2004年12月11日
矢を挟む指が小刻みに震える
放つ矢は彼の体に吸い込まれてゆく
苦痛に喘ぐ 咆哮
躊躇いが私の心に傷を付ける
背中に手を伸ばす
硬い矢が 私の心を冷やす
私は撃ち続ける
彼が死ぬまで

彼を討つ
これ以上醜く歪む姿に
失われてゆく心に
この思い 届かないなら
せめてこの手で

深い森の奥
私達は出会った
彼は私を助け
右腕を失い
そして私の愛を得た

全ては計略だった
身分の違いは
貴族の反感を買い
彼は追放された
約束された騎士の位
彼の夢
それは永遠の闇へ消えた
そして私も…

雨の中 私達は再会する
追っ手の腰に
無くした私のナイフ
肘より先の無い右腕
真紅の胸当て
禍々しい瘴気を放つ
変わり果てたその姿に
私は戦慄する
濁った瞳が 訴える
殺してくれと

雨が顔を打つ
涙さえも出ない
傷から流れる血
憎しみも愛しさも
全ての感情が混じり
私の頬を流れる
擦り切れる皮の手袋
擦り切れる私の心

最後の矢に撓る弓
閃光の如き速さで突き刺さる
彼は力尽き 倒れる
そして終焉を迎える

暗く深い森の中 私は
変わり果てた
血で濡れた その唇に
私の冷え切った唇を
そっと重ねる
そして 抱き寄せる
私もすぐに行くから
そう言い聞かせるように

私たちが居なくなった世界は
何事もなかったように
回り続けるだろう
彼を失ってまで
私がここに居る理由は無い
悲しみと愛おしさに
胸が締め付けられる
世界が神ならば
なんと残酷なのだろう
彼の変わりに
私は神を呪う

そして時は来た
柵など無い
彼の腰のナイフで
私は 私の胸を貫く
終焉から始まりへ
私達は 誰もいないこの場所で
初めて永遠を手に入れる

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